モバイル端末一つで気軽に動画を作成し、SNS上に投稿できる時代。特にInstagramやTikTokなどを中心として、短尺動画やリールと呼ばれるコンテンツが絶大な人気を集めています。
そんな中、Instagramを運営するMeta(旧Facebook)が新たに投入したのが、スタンドアローン型の動画編集アプリ「Edits(エディッツ)」です。
「Edits」は、単に動画を編集できるだけでなく、Instagram上の分析機能や、静止画をAIで動画化できる機能、そしてウォーターマークなしのエクスポートなど、さまざまな魅力的な特徴を持っています。
特にインフルエンサーや本格的なモバイルクリエイターにとっては、ワークフローを劇的に効率化する可能性を秘めていると言われています。
本記事では、そんな「Edits」の登場背景や特徴、競合アプリとの比較に加え、将来的に期待される新機能や収益化戦略まで、初心者にもわかりやすく、かつ掘り下げて解説します。
では、まずはMetaが「Edits」を投入した背景をしっかり理解するところからはじめましょう。
1. リリースの背景とタイミング
1-1. TikTok/CapCutを取り巻く不確実性とリリース時期の巧妙さ
「Edits」は2025年4月にiOSおよびAndroid向けにグローバルリリースされました。実はこの時期、米国を中心にTikTokやその姉妹アプリ「CapCut」を規制強化する動きが加速していたのです。
「TikTokが禁止されるかもしれない」というニュースが世界中を駆け巡り、ユーザーやクリエイターが右往左往していたタイミングでもありました。
Metaは昔から、競合他社の成功をウォッチしながら、自社プラットフォームにその機能を取り込んできたという歴史があります。
たとえばInstagram StoriesはSnapchatの「ストーリー」機能を模倣したものであり、TikTokの短尺動画スタイルが爆発的に流行してからは、Instagram Reelsを投入して対抗しました。
「Edits」もまた、ByteDance社(TikTokの運営元)が提供するCapCutへの直接的な対抗策とされています。
キャッチーなタイミングで発表し、クリエイターが「TikTokやCapCutに不安を感じ始めている」時期にリリース。偶然とは思えないほど、戦略的に計画された発売時期だと言えるでしょう。
1-2. 競合の弱点を突くMetaの狙い
TikTok/CapCutへの規制リスクが高まっている中、ユーザーやクリエイターは代替手段を求めるようになります。
「Edits」はこれを好機と捉え、Instagramとの深い連携や豊富なAI機能を武器にクリエイターを取り込む施策を打ち出しました。
また、Metaのアダム・モッセーリ氏(Instagram責任者)は「何が起ころうとも、最高のツールをクリエイターに提供するのが我々の仕事だ」とコメントしており、表向きはあくまで「クリエイター支援」を強調しています。
しかし裏を返せば、CapCutユーザーが引き起こす“離脱のチャンス”を虎視眈々と狙っていたとも考えられます。
2. Metaの戦略目標
2-1. クリエイター獲得と維持
現代のSNSで最もパワフルな存在は、インフルエンサーや人気クリエイターと呼ばれる人たちです。プラットフォーム側からすれば、この層をいかに囲い込むかが死活問題。
なぜなら、人気クリエイターが使うサービスにはファンも集まり、結果的に広告収益も増える構造になっているからです。
「Edits」を通じて、Instagram内で動画撮影から編集、分析、公開までを一貫して行えるようにすれば、クリエイターが外部ツールに頼らずにコンテンツを作り続けられます。
特にCapCutという強力な外部ツールへの依存度が下がれば、ユーザーがInstagramエコシステムから離脱する可能性を低減できるわけです。
2-2. エコシステムの統合と囲い込み
MetaはFacebookやInstagram、Messenger、WhatsAppなど幅広いプラットフォームを抱えています。
そこに新たな動画編集アプリ「Edits」を加えることで、ユーザーがアプリ間を行き来する時間を増やそうという狙いがあります。
Instagramリールを作るときに、わざわざ別アプリを立ち上げて編集し、その後にInstagramへアップロードするのは手間がかかります。
しかし「Edits」を使えば、最初から最後まで(アイデア出し、撮影、編集、分析、そして公開)が一つのアプリ内で完結する。さらに深い分析データが手元に得られる。
こうした仕組みを提供することで、Meta全体のサービス価値を高めようとしているのです。
2-3. 競合への対抗と価格戦略
CapCutは動画編集アプリとして世界的に人気があり、TikTokとの相乗効果も抜群です。しかし、CapCutの一部高度機能は有料化され始めています。
そこに「Edits」は初期段階で完全無料を打ち出し、しかもウォーターマークなしでのエクスポートを可能にしました。クリエイターにとって、この差は非常に大きいと言えます。
Metaが無料である理由は、単純に「後発だから」とか「慈善事業だから」というわけではありません。
将来的にはAI機能などを有料化して収益源にする可能性を示唆しており、まずは無料のうちに多くのユーザーを取り込むことが戦略上重要だからです。
2-4. Reels成長の後押し
TikTokと同じ「ショート動画」であるInstagram Reelsは、Instagramの利用者増加とエンゲージメントに大きく寄与しています。
そのReelsをより活性化し、TikTokに負けないコンテンツの質と量を確保するには、クリエイターが使いやすい動画編集ツールが必要です。「Edits」はこの需要を満たす形で投入され、より魅力的なコンテンツ制作を助けることでReels全体の質向上を狙っています。
3. 「本格派」クリエイターをどう狙う?
3-1. テンプレート機能をあえて排除した意図
「Edits」は多くの動画編集アプリで一般的な「テンプレート機能」をあえて搭載していません。
これは初心者ユーザーにとって非常に便利な機能ですが、「Edits」は初めから「モバイルで本格的に編集するクリエイター」を狙っているため、テンプレートを搭載せずに高度な編集コントロールを優先しているのです。
こうした設計思想は、動画編集に慣れたクリエイターが「自由度の高さを求めている」という実情に応えています。
テンプレートを多用するユーザーは、むしろCapCutやCanvaなどが得意とする分野。「Edits」は高度な分析機能やフレーム単位の編集を行いたい人にこそ使ってほしいアプリなのです。
3-2. より高品質な動画と高度な分析を重視
また、Instagramアプリ内カメラよりも高機能なカメラモジュールを備え、画質オプションやフレームレートの設定幅が広いのも特徴です。
さらに撮影した動画を細かく管理できる「プロジェクト」タブなど、コンテンツクオリティを高めるための工夫が各所に盛り込まれています。
「Edits」を使うことで、ワークフローの効率化だけでなく、仕上がりの品質も上げたいというニーズに応えているわけですね。
クリエイターとしては、最終的に動画の再生数やエンゲージメントを伸ばしたい。そのためには分析機能で「何がウケているのか」を把握する必要があります。「Edits」はそこを強化することで、CapCutとの差別化を図っています。
4. 「Edits」ならではのコア機能と特徴
4-1. 動画撮影とプロジェクト管理
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アプリ内カメラ: HD、2K、4K解像度、24/30/60fpsなど撮影設定が細かく選べます。HDR撮影にも対応しているため、モバイル撮影ながら高画質を追求できるのが大きな強み。
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クリップ長: 最大10分間の動画クリップを撮影可能。Instagramアプリのカメラだと最大3分ほどですが、「Edits」ならより長尺な映像素材を一気に撮影できます。
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プロジェクト管理: 複数の下書きを一元管理できる「プロジェクト」タブが用意されており、自動保存機能も備わっています。撮影後に別の編集に手をつけても、途中の作業内容が失われにくいのは嬉しいポイントです。
4-2. 編集スイート
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タイムライン編集: フレーム単位で正確にトリミングや分割ができるため、PC用の動画編集ソフトさながらの緻密な作業が可能です。
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視覚効果(フィルター、スタンプ、グリーンスクリーンなど): 人物を切り抜いて背景を差し替えるグリーンスクリーンや、写真・動画を重ね合わせる「オーバーレイ」機能も搭載しています。
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テキストとキャプション: 多言語対応の自動キャプション生成はアクセシビリティ向上や視聴維持率アップに貢献します。テキストを自由にカスタムできる点もクリエイターにとっては重要です。
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オーディオ: Instagramの音源ライブラリからトレンド曲を利用でき、ボイスオーバーやノイズ除去機能も充実。いわゆるYouTube的な「声の入った動画」制作にも対応しやすくなっています。
4-3. アイデアとインスピレーション
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「アイデア」スペース(Stickies): 動画編集アプリの中にメモやブレインストーミングのスペースを持てるのは珍しい機能です。撮影前の構成やストーリーボードを書き留めておけるため、編集作業がスムーズになるでしょう。
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「インスピレーション」フィード: Instagramリールのトレンド音源や人気動画を直接参照しながらアイデアを得られます。いちいち別アプリでリサーチする必要がないので、ネタ探しが捗ります。
5. AI活用による制作支援
5-1. 静止画アニメーション
「Edits」が注目を集める要因の一つが、AIを使って静止画を動画としてアニメーション化できる機能です。
例えば、風景写真をカメラがパンしているように動かしたり、人物写真に軽い動きをつけたりといったクリエイティブが手軽に作れます。通常であれば動画素材を撮影しなければ得られない臨場感を、写真だけで演出できるのは大きなメリットです。
5-2. 自動キャプションと音声強化
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自動キャプション: 複数言語に対応しており、字幕作成が大幅に簡単になります。文字起こしの手間が省けるのは、配信者や動画制作者にとって非常に便利です。
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AI音声強化: マイクが悪かったり、周囲の雑音が気になったりする場合でも、AIがノイズを除去して聞き取りやすい音声に仕上げてくれます。
5-3. 将来的なAI機能と収益化の可能性
モッセーリ氏によれば、より高度なAI機能、たとえば動画の一部分を自由に合成したり、生成系AIで背景を作り変えたりする機能などが将来追加される可能性があるとのことです。
こうした高度な機能は大きな計算リソースを消費するため、無料提供だけでは運用が難しいかもしれない、とMeta自身が言及しています。つまり、いずれは「有料プラン」が登場するかもしれない、ということですね。
6. Instagramを中心とした深いエコシステム統合
6-1. シームレスなアカウント連携と投稿フロー
「Edits」を初めて使うときにはInstagramアカウントと連携します。すでに複数のInstagramアカウントを持っている場合も、簡単にどのアカウントを使うか選べる仕様です。
編集が終わった動画は、アプリから直接InstagramやFacebookにシェア可能。投稿までが一直線で繋がっているのは、クリエイターにとって大きな時短効果があります。
6-2. Editsインサイトダッシュボード
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リアルタイム分析: 普通はInstagramアプリを開いて「リールのインサイト」を覗く必要がありますが、「Edits」ならアプリ内で再生数、リーチ、エンゲージメント率などを一括で確認できる仕組みが用意されています。
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過去60日間限定のデータ: ただし、深い歴史データや細かい分析はできず、過去60日分に限られます。より専門的な分析を行うには、Metaビジネススイートなどを使う必要があるようです。
それでも、「撮った→編集した→投稿した→インサイトを見て改善」という一連の流れを一つのアプリで完結できる点は非常に大きな利点。
特にInstagramで人気を伸ばしたいクリエイターにとっては、競合アプリにはない強みだと言えるでしょう。
7. 主要競合アプリとの比較
7-1. CapCutとの直接対決
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価格・ウォーターマーク: CapCutは基本無料ですが、ウォーターマークを消すなど一部機能は有料。対する「Edits」は完全無料(リリース時点)かつウォーターマークなし。
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Instagram連携・分析機能: 「Edits」はリールの分析機能が内蔵されているのに対し、CapCutはそういった連携がない。
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ターゲット: CapCutは初心者から中級者にも広く人気。「Edits」はよりプロ向け、または本格的なクリエイターを狙っている。
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エフェクトの豊富さ: CapCutには膨大なテンプレート・エフェクトが存在します。一方「Edits」はテンプレートを排除している代わりに、緻密な編集や分析を重視。
7-2. InShotやVN Editorなど他アプリとの違い
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InShot: 初心者がとっつきやすく、写真と動画の簡単編集が特徴。ただし分析機能は非搭載なので、インサイトは別アプリで確認する必要がある。
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VN Editor: 多層編集や速度カーブなど、上級者向けの機能を豊富に備えています。「Edits」と似たような“本格派”志向ですが、Instagram連携は通常の手動投稿のみ。「Edits」はエコシステム統合で優位性を発揮する形です。
7-3. 機能比較のポイント
「どのアプリが一番優れているか」は、結局のところ使う人のニーズとワークフローによります。本当に細かいアニメーションや複数レイヤーを駆使するならVN EditorやPCソフトが向いているかもしれません。
テンプレートでサクッと動画を作りたいならCapCutやInShotが便利でしょう。
しかし、もしInstagram Reelsで伸びたい、あるいはInstagram向けに本格的に活動したいと考えているなら、「Edits」は競合アプリよりも大きなアドバンテージを提供してくれるはずです。
8. エクスポート機能と品質
8-1. ウォーターマークなしの意義
前述のとおり、「Edits」は無料版でもウォーターマークが入りません。クリエイターにとってこれはかなり重要な要素です。
なぜなら、他のSNSやクライアントへの提出に使いたい場合、アプリのロゴや透かしが入っていると見栄えが悪いから。ビジネス利用であればなおさらです。
ウォーターマークなし=プロ仕様、というメッセージがクリエイターの心を引きつける要因になっているのは間違いありません。
8-2. 解像度とフォーマット
情報によると、「Edits」は4K解像度でのエクスポートにも対応している可能性があります。ただ、Instagramにアップロードする際は、結局のところ1080pに落とし込まれるか、強く圧縮されるケースが多いです。
高画質を求めるなら素材は4Kで保存しつつ、実際のSNS投稿時は1080pにするのが無難でしょう。
9. 価格設定と収益化戦略
9-1. 現在は完全無料
2025年のリリース時点では、「Edits」は無料で全機能が使えます。
これはユーザーにとって大きなメリットですが、Metaが永遠に無料で提供するとは誰も思っていません。開発と運用にはコストがかかるからです。
9-2. 将来的なフリーミアム化の可能性
実際、モッセーリ氏は「高度なAI機能は、計算リソースが莫大なので有料にするかもしれない」と示唆しています。
これはつまり、基本的な編集機能やキャプション生成などは引き続き無料提供する一方、生成系AIによる背景変更や高度なエフェクトなどのプレミアム機能を追加料金で提供するスタイルになる可能性が高いということです。
CapCutやCanva、Adobe Expressなど、世界的に成功しているツールの多くがフリーミアムモデルを採用しているように、「Edits」もまずはユーザー数を最優先し、一定数のユーザーが根付いた段階で「プレミアムAI機能」を課金対象にする、といったシナリオが想定されます。
10. 今後の展望:ロードマップと拡張の可能性
10-1. 開発が明言されている機能
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キーフレーム: 細かな動きやエフェクトのタイミングを制御するための機能。プロ並みの動画編集に必須で、他のモバイルエディターでも既に採用されています。
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高度AIエフェクト: 動画全体の見た目や背景をワンタップで変えられるなど、生成系AIを本格的に活用した機能が検討中。
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コラボレーション: 複数のユーザーが同じプロジェクトを共有・共同編集できる機能。チームで動画を作成したり、別のクリエイターにフィードバックをもらったりするのに便利です。
10-2. AIが果たす重要な役割
今や画像や動画におけるAI技術は飛躍的に進歩しています。チャットボットや画像生成AIの登場に続き、動画制作でもAIが「撮影者や編集者に代わって一部の工程を自動化する」時代が到来しています。
Metaが今後「Edits」で展開しようとしているAI機能は、単に“おもしろいエフェクト”をかけるだけではなく、以下のような可能性を秘めています。
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動画の中の人やオブジェクトを自動で検出し、リアルタイムで合成する
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音声を分析して自動でテロップや字幕を生成・装飾する
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ブレ補正やライティング補正など、撮影時のミスを後からAIで修正する
こういった機能が一般ユーザーにも手が届く形で実装されれば、「動画編集は難しいもの」という概念を一変させるでしょう。
ただし、高度なAI処理にはサーバー側の計算リソースが必要となるため、無料で使い続けるには限界があるかもしれません。
10-3. デスクトップ版やマルチデバイス対応は?
現段階では「Edits」はモバイル専用アプリです。一方、CapCutやAdobe Premiereなどはデスクトップ版と連携して大きなモニターやキーボード操作でも編集しやすい環境を提供しています。
プロクリエイターの中には、仕上げ作業だけでもPCでやりたいと考える人も多いでしょう。
Metaが「Edits」をどこまで進化させるか、デスクトップ版を出すのか否かは、今後のユーザー数や要望次第かもしれません。
そこがもし充実すれば、さらに大きなシェアを獲得する可能性が高まります。
まとめ
「Edits」はInstagramを基盤とするMetaの強力なエコシステムとの融合を前面に押し出し、特に本格的なモバイルクリエイター層をターゲットにしています。
静止画アニメーションなどのAI機能からウォーターマークなしのエクスポート、そしてアプリ内でリールの分析が完結するシームレスな設計は、他の動画編集アプリにはない独自性を生み出しています。
とはいえ、リリース直後の段階ではまだ未完成な部分もあり、競合アプリに比べてテンプレート数やトレンドエフェクトの豊富さで劣る可能性も。
将来的には高度なAI機能の追加やコラボ編集機能の充実など、多彩なアップデートが予想されますが、それに伴ってフリーミアム化(有料プランの登場)もほぼ確実と見られています。
もしあなたがInstagramを主戦場にしている、あるいはこれから力を入れていきたいと考えているのであれば、「Edits」を試してみる価値は大いにあるでしょう。
無料のうちにダウンロードして、ウォーターマークなしで高品質な動画を作成できるチャンスを逃さない手はありません。
今後のアップデートやMetaの戦略によっては、SNS上での動画編集環境がさらに大きく変化していく可能性もあります。
「Edits」は単なる動画編集アプリにとどまらず、Instagramと深く融合した次世代の制作プラットフォームでもある。これからの動画編集を大きく変える潜在力を秘めたツールとして、私たちはその進化を見守ることになるでしょう。
気になる方は、ぜひ一度触ってみて、自分なりの使い方を探ってみることをおすすめします。