決算資料をめくっていると、ROEという3文字が当たり前のように並んでいます。私も投資の勉強を始めたころは、この数字が大きい会社ほど良い会社なのだろうと素朴に思い込んでいました。
ところが計算式をたどってみると、そう単純な話ではありません。ROEは利益だけで決まるのではなく、割り算の下側にある自己資本の大きさでも動くからです。
この記事では、ROEの意味と計算式、仮の数字を使った計算例、そして数値を見るときの注意点を順にたどります。
決算資料でROEを見かけたときに「何がこの数字を動かしたのか」を自分で確かめられるようになってください。
- ROEの計算式と、なぜ自己資本の平均値を使うのかを知りたい
- 数字が高い会社ほど良いのか、判断に迷っている
- 自己資本比率との違いや、決算資料での確認手順を整理したい
ROEは何を見ている比率なのか
ROEはReturn on Equityの略称です。日本語だと自己資本当期純利益率、または自己資本利益率。
日本取引所グループ(JPX)の用語集では、当期純利益を前期と当期の自己資本の平均値で割ったものと説明されています。
この説明で目を引くのが、自己資本を「元手」と表現している点です。手元にある元手を使って、1年間でどれだけの利益をあげたのか。
JPXはこれを、企業の経営効率を測る指標の一つとして紹介しています。株価や企業価値そのものを言い当てる数字ではありません。
自己資本は純資産そのものではない
最初につまずきやすいのが、自己資本という言葉です。貸借対照表の純資産の部と同じものだと思って計算すると、数字が合いません。
JPXの用語集では、純資産の部合計から株式引受権、新株予約権、非支配株主持分を除いたものを自己資本と説明しています。
純資産のなかには、親会社の株主に帰属しない部分が混ざっていることがあるためです。
自己資本と純資産はイコールではない、という前提をまず置いておきます。ROEでは、この自己資本を企業活動の元手とみなしたうえで、その元手に対して当期純利益がどのくらいだったかを比率にしたもの。
売上高に対する利益率や、総資産に対する利益率とは、割り算の分母が違うわけです。
ROEが動く理由は、当期純利益の変化と自己資本の変化の2通り。この2つを分けて考えるのが、比率を読むときの土台です。
計算式は2段構えになっている
基本の式そのものは、拍子抜けするほど短いものです。
ROE(%)=当期純利益÷期中平均自己資本×100
ただし分母の期中平均自己資本には、もう一段の計算が必要になります。
期中平均自己資本=(期首自己資本+期末自己資本)÷2
期末の残高をそのまま使わず、わざわざ平均をとるのはなぜか。利益は1年をかけて積み上がるのに対して、期末の自己資本は決算日という一時点の残高だからです。
期首と期末をならせば、その期間に使われていた元手の大きさを簡便に表せます。
注意したいのは、開示資料に載っているROEが必ずしもこの式どおりとは限らない点です。採用する利益の名称や算定方法が注記されている場合もあります。
資料にROEが記載されているときは、自分の計算式へ機械的に置き換えず、まずその資料の定義と計算注記に目を通してください。
仮の数字でROEを計算してみる
言葉の説明だけだと輪郭がつかみにくいので、実際に数字を入れてみます。
ここで使うのは仕組みを確認するための仮定例で、特定の企業の実績ではありません。金額の単位はすべてそろえた前提です。
ある企業の期首自己資本を900億円、期末自己資本を1,100億円、当期純利益を100億円と置きます。平均自己資本を先に出してから、当期純利益を割るという流れです。
期首と期末をならして分母を出す
(900億円+1,100億円)÷2=1,000億円
1年のあいだに自己資本が200億円増えた計算になります。分母に使うのは期末の1,100億円ではなく、期首と期末の中間である1,000億円です。
ちなみに、期中に大きな資本の動きがあった会社では、期首と期末の単純平均が実態からずれることもあります。
増資や自己株式の取得などがあった年は、会社が開示している計算注記や変動理由まで目を通しておくと安心です。
当期純利益を平均自己資本で割る
100億円÷1,000億円×100=10%
この仮定例のROEは10%になります。示しているのは「平均自己資本1,000億円に対して、当期純利益が100億円だった」という関係だけです。
10%という数字そのものから、企業の優劣や今後の業績を読み取れるわけではありません。
分子を動かすと比率がどう変わるかも見ておきます。平均自己資本1,000億円のまま当期純利益を150億円とすれば、ROEは15%。
反対に当期純利益がマイナス50億円なら、平均自己資本がプラス1,000億円という前提で、ROEはマイナス5%です。利益の増減が比率へ直接効いてくるのがわかります。
私が初めて決算短信でROEを目にしたときは、そこに書かれた数字をそのまま受け取って終わりでした。あとから同じ会社の前期と並べてみて、利益はほとんど変わっていないのに比率だけが動いている年があると気づいたんですよね。
それ以来、ROEを見たら分子と分母を書き出すようにしています。

ROEが動く理由は2方向に分かれる
ROEの変化を見つけたら、分子の当期純利益と分母の平均自己資本に切り分けます。
前年より数字が高くなっていても、理由が利益の増加だとは限りません。自己資本が縮んだ結果、比率だけが上がっているケースもある、というわけです。
逆のパターンも起こります。利益が増えていても、平均自己資本がそれを上回るペースで膨らめばROEは下がる方向。比率の変化と利益額の変化は、別物として確認してください。
当期純利益が動いた場合
平均自己資本が同じなら、当期純利益が増えるとROEは高くなり、減れば低くなります。先ほどの仮定例で言えば、平均自己資本1,000億円に対して利益100億円なら10%、150億円なら15%でした。
ここで確かめたいのは、利益が変わった理由のほうです。続いていく事業活動による変化なのか、その期だけの特殊な要因が入っているのかで、同じROEでも読み方が変わってきます。
損益計算書や決算説明資料を開いて、当期純利益を単独で切り離さずに見てください。
当期純利益がマイナスで自己資本がプラスなら、ROEもマイナスになります。マイナスの値をプラスの値と同じ感覚で並べても、収益性の比較としては噛み合いません。
赤字の中身と、それが続きそうかどうかは別に確かめておきたいところ。
自己資本が動いた場合
当期純利益が同じなら、平均自己資本が小さいほどROEは高く出ます。当期純利益100億円で平均自己資本が500億円ならROEは20%。平均自己資本1,000億円だった先ほどの例では10%でした。
この差は、利益が増えた結果ではありません。分母が半分になったので、比率が2倍に見えているだけ。ROEが上がったという事実だけでは、何が起きたのかはまだわかりません。
自己資本の動きを追うときの手がかりは、貸借対照表と株主資本等変動計算書です。
利益の蓄積、配当、自己株式、増資といった、自己資本に関係する項目の変化を見ていきます。個別の会計処理や表示方法については、会社の開示資料に従ってください。

数字の高さだけで判断できない4つの理由
ROEは1本の計算式で出せるので、企業どうしや年度どうしを並べたくなります。ただ、条件をそろえないまま数字だけを比べると、理由の違う変化を同じものとして扱うことになりかねません。
私が特に気をつけている点は4つです。
分母が縮むだけでも数字は上がる
高いROEの背景に、利益の増加ではなく自己資本の縮小があるケースです。
ROEだけを眺めていても、資本構成がどう変わったのかまでは見えてきません。数字が跳ねた年ほど、分母側の動きを先に確かめておきたいところ。
1年分の利益で大きく振れる
ROEの分子は当期純利益なので、その期の利益変動がそのまま比率に出ます。
1年だけを切り取ると、たまたまの数字を実力だと読み違えかねません。複数年の推移を並べ、損益の説明と突き合わせると、この読み違いはかなり減らせます。
自己資本が極端に小さいと比較にならない
分母がゼロに近づくほど、比率は大きく振れます。
自己資本がマイナスの場合は、数値を直感的に比べること自体が困難。こうした場面では、ROEによる単純比較には向かないと考えておきます。
事業の性質が違えば土俵も違う
必要な設備や資産の規模、負債の使い方が違えば、自己資本と利益の関係も変わってきます。
業種をまたいでROEの順位を並べても、比べているものが同じとは限りません。比較の基本は、同じ企業の時系列か、事業条件の近い企業どうし。計算の定義もそろえておきます。
ROEはあくまで判断材料の一つです。利益額、売上高、資産、負債、キャッシュ・フロー、事業上のリスクを置き換えてくれる指標ではありません。
単独で結論を出すのではなく、何がこの比率を動かしたのかを調べる入口として使うのがおすすめです。
私自身は、ROEを見たらまず同じ会社の3期分を横に並べます。そこへ当期純利益の実額と自己資本の残高を書き添えるだけで、比率が動いた原因がどちら側にあるのか見当がつくんですよね。
手間はかかるものの、この一手間で数字への納得感がずいぶん変わりました。
ROEと自己資本比率はどう違うのか
名前が似ているせいでROEと混同されやすいのが、自己資本比率です。どちらも資本に関わる指標ですが、見ている中身は別物。
JPXの用語集では「株主資本比率」として、株主資本を総資産で割った比率が企業の資本構成を表す指標の一つだと説明されています。
開示資料でよく見かける「自己資本比率」と、JPX用語集の「株主資本比率」を無条件に同じものとして扱うのは避けたいところです。分子と分母に何を使っているかは、資料ごとの計算注記で確認します。
並べて整理すると、ROEは「利益÷自己資本」、株主資本比率は「株主資本÷総資産」。前者は収益性の一面を、後者は資本構成の一面を見ています。名前が似ていても、答えている問いが違うわけです。
JPXの用語集には、利益と総資産を一定額とした場合、株主資本比率が高いほどROEは低くなるという関係も書かれています。
資本が厚くなれば、ROEの分母が大きくなるためです。つまり、ROEの大小だけでは資本構成まで語れません。
2つの指標を並べるときは、ROEが変わった理由と株主資本比率が変わった理由を、それぞれ別に確認します。
高い低いというラベルを先に貼らず、利益・資本・総資産という3つの数字まで戻って読み解いてみてください。
決算資料でROEを確認する手順
比率だけを抜き出さず、計算の前提を順番にたどると読み違いが減ります。私がいつも踏んでいる順番は次のとおり。
年度なのか四半期なのか、過去何期分の推移なのかをそろえます。資料がROEをどの名称で書いているか、計算注記が付いているかもあわせて確認。
どの利益を使っているか、前年から金額がどう動いたか、決算説明でどんな要因が挙げられているかを読みます。比率だけでなく実額も並べておくのがコツです。
期首と期末の自己資本、その平均値、期間中の主な変動を見ていきます。純資産合計と自己資本は同じとは限らないため、非支配株主持分などの区分にも注意が必要です。
開示されたROEと、自分で計算した値が大きく離れていないかを確かめます。差があるときの見直し先は、端数処理、採用利益、平均自己資本、連結か個別か、対象期間あたり。
差をすぐ誤りと決めつけず、会社の注記を優先してください。
記録に残すときは、「対象年度」「ROE」「分子の利益」「期首・期末自己資本」「計算定義」「確認日」を一組でメモしておくと、あとから比較するときに助かります。
計算注記がどこにあるのか、私は最初ずいぶん探し回りました。
決算短信ならサマリー情報のあたり、有価証券報告書なら主要な経営指標等の欄が入口になります。一度場所を覚えてしまえば、あとは同じ動作の繰り返し。
他社や他の年と比べるときの注意点
時系列で見る場合は、同じ企業の複数年を並べます。
1年分の変化ではなく、利益と自己資本がそれぞれどう動いたのかを追ってください。会計方針や連結の範囲に変更があった年は、注記まで読んでおくと安全です。
企業間で比べるなら、対象年度、連結か個別か、利益の定義、自己資本の定義をそろえます。事業内容や資本構成が大きく違う企業を、ROEの順位だけで評価しないよう気をつけてください。
もう一つ、予想ROEと実績ROEの区別も忘れずに。将来の利益予想を使った比率と、確定した実績値では前提そのものが違います。
資料の表題と注記を見て、実績なのか会社計画なのか、外部の予想なのかを分けて扱ってください。この記事で扱っているのは、実績値をもとにした基本の計算です。
ROEが動いた年を見つけたら、確認の順番を決めておくと迷いません。当期純利益の実額、期首と期末の自己資本、そのどちらが比率の変化に強く効いたのか。
ここまで確かめたうえで、その期に固有の要因や大きな資本の動きがなかったかを見ます。資本構成の側は、自己資本比率など別の指標であらためて確認しておくと安心です。
この手順は、売買の答えを出すためのものではありません。比率を形づくっている事実まで戻って、決算資料を読み違えないための確認作業です。
まとめ
ROEは、当期純利益を期中平均自己資本で割った比率です。数字が動いた理由は利益側と自己資本側に分かれるため、高い低いだけで企業を判断できません。
決算資料では、対象期間、採用している利益、期首と期末の自己資本、計算注記を確かめ、複数年の推移とあわせて見るのが基本になります。
ROEを見かけたら、まず分子の当期純利益と分母の自己資本に切り分けてみてください。この一手間だけで、数字の見え方がずいぶん変わります。

