「企業向けサービス価格指数が前年比で上昇」というニュースを見ても、何の価格の話なのかはすぐに分かりにくいですよね。
企業物価指数や消費者物価指数と名前が似ていることも、混乱しやすい理由の一つでしょう。
読むときのコツ自体は単純で、対象月と系列名を確かめてから、前年比と前月比、総平均の内訳へと下りていけば意味を追えます。
企業向けサービス価格指数は、企業間で取引されるサービスの価格変動を測る日本銀行の統計です。英語名はServices Producer Price Indexで、SPPIと略されます。
企業向けサービス価格指数とは
企業間でやり取りされるサービスの価格を集めて、全体の動きを一本の指数にまとめたものが企業向けサービス価格指数です。
ここでいう企業には、民間企業だけでなく公的企業や官公庁も含まれます。
統計としての歴史は意外と長く、公表開始は1991年1月、データは1985年1月までさかのぼれます。現在使われているのは2020年基準の指数です。
企業間サービスの価格を測る
対象は、国内のサービス提供者と国内企業のあいだで取引されるサービスです。
価格は原則として、サービスが提供された時点の生産者価格を調べます。実際に成立した取引価格を、売り手の段階で捉えるという考え方ですね。
個人向けサービスは原則として対象外です。ただし郵便や電話のように、個人だけでなく企業も同じように使うサービスは対象に入ります。
企業向けと個人向けで中身が違う場合は、企業向けの価格が調査されます。
用途は、景気や物価の動向を判断する材料が中心です。名目金額から価格変動を取り除くデフレーターとして使われたり、企業間の値決めの参考にされたりもします。
2020年平均を100とする
2020年基準の指数は、2020年の平均価格を100として作られます。だから指数が100を超えていても、その月に価格が急に動いたという意味ではありません。
基準年の平均と比べて、いまどのあたりの水準にいるかを示しているだけです。
月ごとの動きを追うときは、指数の水準と変化率を分けて見ましょう。水準は基準年からの距離、前年比や前月比は比較した期間のあいだに起きた変化を表します。
基準年はずっと固定されるわけではなく、5年ごとの基準改定で更新されます。
改定では分類や品目、ウエイト、調査方法も見直されるため、長期のデータをつなぐときは接続指数の注記まで目を通しておくと安心です。
対象に含まれるサービス
基本分類指数は、総平均から品目まで階層になっています。総平均だけでは何が起きたのか分からないので、大類別、類別、小類別、品目と下りていける作りになっているわけです。
たとえば運輸・郵便と情報通信では、価格を動かす契約条件がまるで違います。総平均が変化していても、すべてのサービスが同じ方向に動いたとは限りません。
7大類別から146品目まで
2020年基準の基本分類は、次の5段階で構成されています。
| 階層 | 数 | 内容 |
|---|---|---|
| 総平均 | 1 | 基本分類全体の動きを示す |
| 大類別 | 7 | 金融・保険、不動産、運輸・郵便、情報通信、リース・レンタル、広告、諸サービス |
| 類別 | 26 | 大類別を分けた区分 |
| 小類別 | 59 | 類別をさらに分けた区分 |
| 品目 | 146 | 公表される指数の最小単位 |
基本分類指数が対象とするのは国内取引のサービスです。消費税を含むベースで作られ、外貨建ての調査価格は円へ換算して集計されます。
参考系列には、国際運輸の影響を除いた総平均や、人件費投入比率に基づく分類指数があります。外貨建て価格を円換算せずに集計する契約通貨ベースも、該当する分類で公表されています。
このほかに卸売サービス価格指数や研究開発価格指数といった参考指数もありますが、こちらは四半期ごとの公表です。月次で出る基本分類と混同しないよう気をつけてください。
対象外となるサービスもある
企業間の取引であっても、すべてのサービスが指数に入るわけではありません。継続して価格を調べるのが難しく、代わりに動きを近似できるサービスも見当たらない場合は、対象から外れます。
2020年基準の主な対象外は、FISIMと小売サービスです。
FISIMは間接的に計測される金融仲介サービスのことです。預金金利と貸出金利の差のように、手数料として明示されない形で受け取られる金融サービスを指します。金額が表に出てこないため、価格を継続的に調べること自体が難しいわけですね。
採用品目の選び方にも基準があります。まず基準年の企業間取引額が原則5,000億円以上のサービスを小類別として選びます。
そのなかから、取引額を推計でき、品質を一定にした価格調査を続けられるものが品目になります。
裏を返せば、この指数は企業向けサービスの料金一覧ではありません。どこまでカバーされているのかを知りたいときは、総平均の数字より先に品目分類編成や調査対象サービス一覧を見るのがおすすめです。
価格変動を測る仕組み
サービスは中身や契約条件が案件ごとに違い、同じ名前でも品質がそろっているとは限りません。
そこでサービス内容、販売先、取引条件といった価格に影響する条件を特定したうえで、比較できる価格を継続して調べています。
原則は、実際の取引価格を追う銘柄指定調査です。ただしサービスの性質によっては、平均価格、モデル価格、料率、労働時間当たりの単価、マージンなどを使う方法も採られます。
品質をそろえて継続調査する
価格が上がって見えても、サービスの中身が良くなっていれば、その差をまるごと値上げとして扱うことはできません。
逆に表示価格が同じでも、提供される内容が縮んでいれば、そこには品質の変化が含まれています。
調査対象を変えるときは、新旧サービスの品質差を調整します。主な方法は、直接比較法、単価比較法、コスト評価法、オーバーラップ法、ヘドニック法の5種類です。
こうした仕組みがあるので、指数は目にした料金を単純に平均した数字ではありません。品質と取引条件をそろえたうえで、価格の変動だけを取り出そうとしている統計なんです。
ウエイトを固定して集計する
集計に使われるのは固定基準ラスパイレス指数算式です。各サービスの価格指数を、基準時の取引額から決めたウエイトで加重平均する方法をいいます。
2020年基準のウエイトは少し特殊で、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、2019年と2020年の平均企業間取引額を基礎にしています。
通常なら単年の取引額を使うところを、2年平均にした特例ですね。
ここで押さえておきたいのが、ウエイトが大きい品目ほど、同じ変化率でも総平均を大きく動かすという点です。変化率が目立つ品目を見つけても、それが総平均を動かした主因とは限りません。
総平均を読むときは、類別や品目の変化率とあわせてウエイトも確認しましょう。
基準時から年数が経つほど、いまの取引構成との差が開いていく点も頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
企業物価指数やCPIとの違い
物価指数は、何を測るのかと、どの段階の価格を拾うのかで役割が変わります。
名前が似ていても、同じ価格に別の呼び名を付けているわけではありません。3つを並べて整理しておくと、ニュースの数字を取り違えにくくなります。
| 指数 | 対象 | 価格を調べる段階 |
|---|---|---|
| 企業向けサービス価格指数 | 企業間で取引されるサービス | 生産者(サービスの提供者)段階 |
| 企業物価指数 | 企業間で取引される財 | 企業間の取引段階 |
| 消費者物価指数 | 家計が購入する財とサービス | 小売段階 |

企業物価指数は財を扱う
企業物価指数は、企業間で取引される財の価格を測る日本銀行の統計です。財とは、ここではモノを指します。
一方の企業向けサービス価格指数はサービスが対象で、広告、情報通信、不動産、運輸といった形のない取引の価格を扱います。
どちらも企業間の物価を捉える統計ですが、対象が財とサービスできれいに分かれているわけです。
そのため、企業物価指数が動いたからといって、企業向けサービスの価格まで同じように変化したとは判断できません。財とサービスは、価格が決まる仕組みも改定のタイミングも違います。

CPIは家計の購入価格を扱う
消費者物価指数(CPI)は、家計が購入する財やサービスの価格変動を測る統計です。企業向けサービス価格指数とは、対象範囲も価格を調べる段階も異なります。
CPIのサービスは、家計が買うサービスを小売段階で捉えます。企業向けサービス価格指数のほうは、企業間のサービスを提供者の段階で捉えます。
郵便や電話のように企業と個人が同じように使うサービスは、両方の対象になり得ます。それでも、調査するサービスの内容やウエイトまで同じとは限りません。
企業向けのサービス価格が動いても、消費者向けの価格へ同じ時期に同じ幅で反映されるとは限りません。契約期間、需要の強さ、品質、企業の値決めの姿勢が、それぞれ違うためです。

前年比と前月比の見方
公表資料には、指数の水準、前年比、前月比が並びます。変化率にまず目が行きますが、その前に対象月、系列、分類、消費税の扱いを確かめておきましょう。
もう一つ知っておきたいのが、価格が動きやすい時期の偏りです。
企業向けサービス価格指数には、契約更改が4月と10月に集中するサービスが少なくありません。宿泊や旅客輸送のように、季節で価格が上下する品目も含まれています。
最初に系列名と対象月を見る
まず確かめるのは、いま見ているのが基本分類の総平均なのか、特定の大類別や品目なのかという点。参考指数や消費税を除く指数を開いている場合は、基本分類の総平均としっかり区別しておきます。
次に公表対象月と掲載日です。同じ月の指数でも、速報の時点とその後の訂正後では値が変わっている場合があります。
外貨建て価格を含む分類では、円ベースか契約通貨ベースかも見ておきましょう。円ベースには為替換算の影響が入ります。
前年比は同じ月どうしの比較
前年比は、当月と前年の同じ月を比べた変化率です。季節が同じ月どうしを比べるので、季節性のあるサービスを読むときの手がかりになります。
注意したいのは、比較の土台になる前年の水準です。前年が特殊な動きをしていると、当年の変化が実際より大きく見えたり、小さく見えたりします。
ですから、単月の前年比だけで方向を決めつけないほうが無難でしょう。
日本銀行も、ある程度の期間を均して傾向をつかむ方法として、前年同月比やその四半期平均で見ていくことを挙げています。
前月比は直前の月との比較
前月比は、当月と直前の月を比べた変化率です。直近の変化をつかみやすい反面、契約更改や一時的な値動きの影響も受けます。
前月比は季節調整済みの数字なのでしょうか。答えは違います。企業向けサービス価格指数では、季節調整済指数を作成・公表していません。季節性のある品目、価格が見直される時期はあっても規則性が一定でない品目、季節ごとには見直されない品目が混在しているためです。
季節調整が必要なら、利用する側が品目や類別ごとに自分で行うことになります。
前月比を読むときは、4月と10月の契約更改、宿泊や旅客輸送の季節性など、品目ごとの事情もあわせて確認してください。
総平均から内訳へ進む
総平均の変化を見たら、そこで止めずに内訳へ下りていきます。順番を決めておくと迷いません。
基本分類の総平均か参考指数か、速報か訂正後かをここで確定させます。
指数の水準、前年比、前月比を分けて確認します。ここではまだ結論を出しません。
全体の動きと関係している類別を絞り込みます。7つしかないので、ここは短時間で済みます。
変化率とウエイトの両方を見て、総平均への影響が大きい品目を確かめます。
変化率が大きい品目と、総平均への影響が大きい品目は一致しないことがあります。ウエイトが違うためですね。
価格の変化が広い範囲で起きているのか、一部の品目に限られるのか。この違いも、内訳まで下りて初めて見えてきます。
ただし、そこまで読んでも分かるのは統計が示す価格の変動までです。景気や市場の先行きを一つの指数から断定することはできません。
公表資料を確認する順番
日本銀行の企業向けサービス価格指数のページには、概要、FAQ、公表データ、時系列データへの入り口が並んでいます。目的ごとに資料を使い分けると、必要な数字へ最短でたどり着けます。
速報と時系列データを分ける
最新の月を見たいなら、公表データ一覧から対象月の速報を開きます。総平均の水準、前年比、前月比を確認してから、類別や品目へ進みましょう。
月次指数の公表は、原則として翌月の第18営業日、午前8時50分です。月間の営業日数が少ない場合などには、公表日が少し繰り上がることもあります。
- 速報
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対象月の指数と変化率をまとめた資料。公表データ一覧から開く
- 時系列統計データ検索サイト
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長期の推移をたどったり、データをダウンロードしたりする場所
- 接続指数
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過去基準と新基準をつないだ指数。基準改定をまたぐ比較で使う
接続指数は、採用品目もウエイトも品質調整の方法も違う指数をつないだものです。
基準改定をまたぐ長期比較では、接続指数と過去基準との対応表もあわせて確認し、基準の違いを無視して機械的に並べないようにしましょう。
訂正と公表日を記録する
月次指数は、速報の公表から3か月後まで、その間に利用できるようになった情報を順次反映して訂正されます。訂正は各月の公表時に行われます。
定期遡及訂正のほうは年1回。月次指数では9月の8月速報公表時に実施され、対象期間は原則として前年1月以降です。
総平均へ大きな影響が及ぶような場合には、定期訂正を待たずに遡及訂正が行われることもあります。
つまり、過去のニュースと現在の時系列データで値が違っていても、すぐに誤記と決めつけることはできないわけです。
統計値を引用したりメモしたりするときは、次の4点を一緒に残しておくのがおすすめです。
- 対象月
- 公表日
- 自分が確認した日
- 速報値か訂正後の値か
読むときの注意点
ここまでの内容から、実際に使うときに引っかかりやすい点をまとめておきます。どれも一度つまずくと数字の意味を取り違えやすいところです。
- 対象範囲を広く見すぎない。個人向けサービスは原則対象外で、企業間サービスでも継続調査が難しいものは含まれない
- 総平均だけで背景を説明しない。分類ごとにウエイトが違うので、類別と品目まで確認する
- 前月比を季節調整済みと誤解しない
- 企業物価指数は企業間の財、CPIは家計が購入する財とサービス。対象を混同しない
- 速報値を確定値として固定しない。後から情報がそろって訂正される場合がある
- 一つの物価指数から相場や個別企業の評価を導かない
まとめ
企業向けサービス価格指数は、企業間で取引されるサービスの価格変動を測る日本銀行の統計です。
2020年基準では2020年の平均を100とし、総平均、7大類別、26類別、59小類別、146品目で基本分類を構成しています。
企業物価指数は企業間の財、CPIは家計が購入する財とサービス。名前は似ていても、対象と価格を調べる段階が違います。
読む順番は、対象月と系列名の確認、前年比と前月比、そして総平均から内訳へ。季節調整済指数が公表されていないことと、速報値が後から訂正されることも、あわせて押さえておきましょう。
企業向けサービス価格指数は、景気や相場の結論を単独で示してくれる数字ではありません。どのサービスの価格が、いつ、どの範囲で動いたのかを整理するための基礎資料。
この距離感で付き合うのが、ちょうどよいところでしょう。
