近年、米国株式市場への投資は日本国内でも大きな注目を集めており、その代表格としてS&P 500指数に連動するファンドは特に人気が高いといえます。
ところが、2025年3月に入り、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の基準価額や純資産総額の推移を見ると、明らかに資金流出が起きている兆候が見られます。
価格推移のデータでは、2月半ばに比べて3月半ばにかけて基準価額が下落し、それに伴い純資産総額も減少している状況です。
この記事では、このデータを具体的に読み解きながら、現在の資金流出の背景と今後の展望について、ポジティブ・ネガティブ双方の視点を交えて考察していきます。
データの概観:2025年2月中旬〜3月中旬にかけての推移

まずは、添付画像に示されている基準価額と純資産総額の推移を日付の古い順にざっと見てみましょう。
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2025年2月14日
- 基準価額:33,855円
- 前日比:-23円
- 純資産総額:70,013億円
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2025年2月17日
- 基準価額:33,659円
- 前日比:-196円
- 純資産総額:69,640億円
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2025年2月18日
- 基準価額:33,606円
- 前日比:-53円
- 純資産総額:69,606億円
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2025年2月19日
- 基準価額:33,797円
- 前日比:+191円
- 純資産総額:70,010億円
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2025年2月20日
- 基準価額:33,652円
- 前日比:-145円
- 純資産総額:69,829億円
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2025年2月21日
- 基準価額:33,229円
- 前日比:-423円
- 純資産総額:68,962億円
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2025年2月25日
- 基準価額:32,581円
- 前日比:-648円
- 純資産総額:67,662億円
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2025年2月26日
- 基準価額:32,147円
- 前日比:-434円
- 純資産総額:66,780億円
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2025年2月27日
- 基準価額:32,221円
- 前日比:+74円
- 純資産総額:67,017億円
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2025年2月28日
- 基準価額:31,301円
- 前日比:-420円
- 純資産総額:不明
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2025年3月3日
- 基準価額:32,500円
- 前日比:+699円
- 純資産総額:67,682億円
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2025年3月4日
- 基準価額:31,656円
- 前日比:-844円
- 純資産総額:65,981億円
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2025年3月5日
- 基準価額:31,398円
- 前日比:-258円
- 純資産総額:65,976億円
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2025年3月6日
- 基準価額:31,617円
- 前日比:+219円
- 純資産総額:66,472億円
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2025年3月7日
- 基準価額:30,809円
- 前日比:-808円
- 純資産総額:64,282億円
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2025年3月10日
- 基準価額:30,837円
- 前日比:+28円
- 純資産総額:64,912億円
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2025年3月11日
- 基準価額:29,868円
- 前日比:-969円
- 純資産総額:62,901億円
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2025年3月12日
- 基準価額:29,925円
- 前日比:+57円
- 純資産総額:63,356億円
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2025年3月13日
- 基準価額:30,119円
- 前日比:+194円
- 純資産総額:63,770億円
このように、2月中旬に基準価額が3万3,000円台だったところから、3月にかけてはついに3万円を割り込み、2万円台後半へ近づいている日も見られます。
純資産総額も2月13日頃は7兆円(70,000億円)に近い値で推移していたのに対し、3月中旬には6兆円前半(62,000〜63,000億円)台まで減少しているのがわかります。
これは単に株価の下落による評価減だけでなく、一部投資家が解約に動いたことによる資金流出の影響も考えられます。
ファンドの純資産総額は「基準価額の変動 × 口数」により変動しますが、下落率以上に純資産総額が減少している場合は、投資家の解約(資金流出)が起きている可能性が高いと言えるでしょう。
なぜ資金流出が起きているのか
1-1. 米国経済の先行き不透明感
S&P 500に代表される米国株式は、過去数年にわたって高パフォーマンスを示し、多くの投資家が資金を集めてきました。
しかし、最近の米国は以下のような不安材料を抱えています。
- インフレ圧力:コロナ禍以降の金融緩和やサプライチェーン混乱による物価上昇、さらにエネルギー価格の乱高下が継続的な課題。
- 金融引き締め策:インフレ抑制のための利上げ継続が企業収益を圧迫し、株式市場への資金流入にブレーキをかけている。
- 景気後退懸念:2024年末から2025年にかけて、米国内でリセッションが起こるのではないかという懸念が根強い。
こうした不安定な経済状況のなか、機関投資家や大口投資家を中心にポジション整理の売りが出ている可能性があり、結果としてS&P 500連動ファンドからの資金流出を招いていると考えられます。
1-2. リスクオフの動き
世界的に金利が高止まりする局面では、リスク資産である株式から安全資産(米国債や現金)への資金シフトが起きやすくなります。
特に、利上げ局面が長期化すると、安定配当や固定利回りが得られる債券や預金が相対的に魅力を増し、株式からの資金流出を後押しすることがあります。
1-3. 為替動向による影響
日本の投資家視点では、ドル高・円安が進んでいる局面では、円換算した基準価額が上振れしやすいメリットもありますが、急激な為替変動は投資家心理を不安定にします。
為替リスクを嫌って一時的にポジションを解消し、様子見の姿勢を取る投資家も少なくありません。
ポジティブな見解
ここからは、S&P 500に対して「まだまだ魅力は十分にある」というポジティブな視点を紹介します。
2-1. 米国経済の強靭さ
米国経済は世界経済の牽引役であり続けてきました。
たとえ短期的な景気後退があったとしても、テクノロジーやバイオなど成長が期待されるセクター、または米国企業のイノベーション力を考えれば、中長期的には上昇基調を維持しやすいという見方があります。
- イノベーション企業の多さ:AppleやMicrosoft、Google(Alphabet)、Amazonといった世界的IT企業がS&P 500の中心的銘柄。製造業においてもTeslaなどの新興企業が健在。
- 多様なセクター構成:IT、金融、医療、一般消費財など、幅広いセクターをカバーしているため、特定セクターの不調を全体で緩和しやすい。
2-2. 過去の歴史が示す株式市場の回復力
S&P 500は歴史的に見ても、短期的な暴落や不況を何度も乗り越えてきました。
2000年代のドットコムバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年前後のコロナショックなど、多くの危機がありながらも、その都度力強く回復し最高値を更新しています。
- 長期投資の恩恵:インデックス投資の王道である「買って長期保有する」戦略は、米国市場においては特に効果が高いことが過去のデータから示唆されている。
- ドル資産の強み:世界の基軸通貨であるドル建ての株式資産を保有することで、為替リスクはあるものの、世界経済全体が不安定化した際のディフェンシブな側面も一部享受できる。
2-3. 一時的な利益確定売りの可能性
今回の資金流出は、一時的な投資家の利確(利益確定売り)の側面も考えられます。ここ数年の米国株上昇局面で得たキャピタルゲインを確定する動きが増え、ひととおり売りが出尽くせば再び資金が戻ってくるシナリオも十分にあり得るでしょう。
ネガティブな見解
一方で、今後も資金流出や株価下落が続くリスクがないわけではありません。ネガティブな視点からも考察しておきましょう。
3-1. 利上げの長期化と企業業績の鈍化
米国のインフレが想定以上に長引く場合、FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを早期に止められない可能性があります。
金利が高止まりすれば、企業の資金調達コストが上昇し、借入依存度の高い企業の収益悪化につながるかもしれません。
- 高金利による投資マインドの冷え込み:投資家がリスク資産から安全資産へのシフトを進めることで株価が抑制される。
- 成長企業のバリュエーション低下:ITやハイテク関連企業は高い成長期待が織り込まれたバリュエーション(株価評価)だが、金利上昇はその割高感を意識させ、株価調整を引き起こす可能性がある。
3-2. 米国以外への投資シフト
世界経済に目を向けると、BRICS諸国や新興国、さらには欧州株式、アジア株式など米国一極集中ではない投資戦略をとる投資家も増えています。
とくにドル高がひと段落したタイミングで、新興国通貨の対ドル安が落ち着けば、割安感のある市場へ資金が流れる可能性も考えられます。
3-3. 地政学的リスクの拡大
米中対立や欧露関係の悪化など、地政学的リスクは引き続き世界市場に影を落としています。
米国は大国としての立場ゆえに、政治的・軍事的な衝突の最前線に立つことも多く、投資家心理に大きなインパクトを与える可能性があります。
投資家がとるべきアクションと考え方
4-1. 自身のポートフォリオを再点検する
資金流出や基準価額の下落が続く局面では、焦って保有ファンドを売却してしまう投資家もいるでしょう。
しかし、長期的な投資目標を掲げている場合は、すぐに動揺するのではなく、まず自分のポートフォリオを見直すことが大切です。
- 資産配分(アセットアロケーション)のバランス確認
米国株式に偏りすぎていないか、他の資産クラス(国内株、債券、コモディティなど)とのバランスは適正かをチェックする。 - リスク許容度の見直し
投資期間や資産額、ライフプランの変化に応じて、どの程度の損失に耐えられるかを再評価する。
4-2. 定期買付や積立投資の活用
下落局面が訪れたからといって一度に売り払うのではなく、積立投資を継続することで平均取得単価を引き下げる方法も有効です。
インデックス投資の王道である「時間分散」は、特に相場の乱高下が続く局面で威力を発揮します。
- ドルコスト平均法のメリット
相場が下がっているときに買うことで、将来の回復時に大きなリターンを得られる可能性が高まる。 - 積立設定の継続
相場下落を理由に積立設定を停止してしまうと、高値掴みのリスクばかりが残り、結果的に長期リターンが損なわれる恐れがある。
4-3. 追加投資のタイミングを見極める
リセッション懸念や金利上昇リスクがあるにせよ、投資経験者のなかには「株価が安くなっている今こそ仕込みのチャンス」と考える人もいます。
ただし、追加投資をする際は以下の点に注意しましょう。
- 余剰資金の範囲で行う
生活防衛資金や緊急資金を確保したうえで、余裕のある範囲で投資するのが原則。 - 複数回に分けて投資
一度にまとめて投資するより、相場の状況を見ながら複数回に分散して投資するほうがリスクを抑えやすい。
今後のシナリオ展望
5-1. ポジティブシナリオ
- インフレが急速に落ち着く
FRBの利上げ策が功を奏してインフレが鎮静化。追加利上げが止まり、企業収益も回復して株価が上昇。 - ITセクターの復調
AIや5G関連、EVやクリーンエネルギー分野など、新たな成長領域で米国企業が再び注目を集め、株価が牽引される。 - ドル高・円安の継続
日本からみた場合、為替差益が狙える環境が続き、基準価額も押し上げられる可能性がある。
5-2. ネガティブシナリオ
- 景気後退が顕在化
企業収益の大幅悪化や失業率の上昇で消費が冷え込み、株式市場に長期的な下落圧力がかかる。 - 金利上昇によるバリュエーション調整
成長期待の高いセクターほど調整幅が大きくなり、S&P 500全体の下落につながる。 - 地政学的リスクの激化
米国が関係する国際問題のエスカレートにより、投資マインドが一層冷え込み、逃避先としてのドル資産が買われる一方、株式には逆風となる。
まとめ
今回のデータを見る限り、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の基準価額は2月半ばの3万3,000円台から3月半ばには2万9,000円台へと下落し、純資産総額も約7兆円から6兆円前半へと目減りしています。これは株価下落と投資家の解約(資金流出)の両方が重なった結果と推測されます。
しかしながら、S&P 500は過去の幾多の危機を乗り越えてきた強靭なインデックスです。
短期的には変動が大きいものの、長期投資という観点から見れば魅力を失ったわけではありません。長期的なリターンを期待しつつ、下落局面ではむしろ買い増しのチャンスと捉える投資家も少なくありません。
一方で、世界的な金利上昇や景気後退リスク、地政学的リスクなどは引き続き注意が必要です。利上げが長引けば株式市場への逆風が継続する可能性は十分にあり、株価の底値を予測することは困難です。
投資家は焦らず、まずは自分の資産配分を見直し、リスク許容度に合った運用を心がけることが大切といえるでしょう。