資産形成を考えるうえで、よく議論の的となるのが「債券の必要性」です。
とくに若い世代や、これから大きく資産を増やしていきたい「資産構築期」の投資家は、株式100%で攻めるべきなのか、あるいはリスクを減らすために債券などを組み入れるべきなのかで悩みがちです。
過去の暴落を振り返ると、株式市場の下落幅は時に50%を超えることもあり、一度そうした経験をすると債券の重要性を再認識する場合もあるでしょう。
一方で、長期的な成長を狙うならば株式の比率を高めるほうがリターンが大きいという意見も根強く存在します。
本記事では、「資産構築期における債券の必要性と、その配分はどの程度がよいのか?」というテーマを中心に、さまざまな角度から投資戦略を考察します。加えて、過去の暴落事例や一括投資と積立投資の違いなどにも触れながら、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
最後には、今後さらに深掘りできる内容として「出口戦略」や「暴落時の具体的対応」などについても簡単に触れます。
これから資産形成をスタートする、あるいはすでに始めたけれど今後の方針に迷っているという方に、少しでもお役に立つ情報をお届けできれば幸いです。
資産構築期における債券の必要性とは?
ポートフォリオ構築の上で、必ずといってもよいほど頻繁に出てくるワードが「債権」です。まずは、債権の必要性について考えてきます。
債券のメリットとデメリット
債券のメリット
- ボラティリティの低減
株式と比べて価格変動が小さいため、ポートフォリオ全体の上下動を抑える効果があります。特に、株式市場が大きく下落するときには、債券がクッションの役割を果たす可能性があります。 - 逆相関効果
市場環境によっては株式と逆の値動きをすることで、資産全体のリスクを分散します。リスク分散の観点では債券は有効な資産です。 - 安定したキャッシュフロー
債券は定期的な利息(クーポン)を受け取れるケースが多く、株式の配当よりも安定的です。 - リバランス用資産
株式が急落したときに、債券を売却して株式の買い増しに回すなど、ポートフォリオをリバランスする際に資金源として機能しやすい面があります。
債券のデメリット
- リターンの低さ
株式と比べて一般的に期待リターンが低く、資産を大きく増やしたい段階には不向きに感じられる面があります。 - 金利上昇時の価格下落リスク
債券の価格は金利動向と密接な関係があります。金利が上昇すれば、既存の債券の価格は下落するリスクが高まります。 - インフレリスク
債券は通常、額面金額とクーポンの組み合わせでリターンが決まるため、インフレが進行すると実質的な価値が目減りする可能性があります。
資産構築期に債券はどれくらい必要なのか?
債券を組み入れることでリスクを抑える効果が得られる一方、債券自体のリターンは株式ほど高くはありません。資産を大きく増やしたい段階であれば、「株式中心のポートフォリオ」を選択するのは自然な考え方といえます。
一方で、まったく債券を持たない場合には、市場の急落局面でリバランスを行うための安定資産が不足し、結果的に損失を拡大してしまう可能性も否定できません。特に、心理的なストレスが大きくなる場面では、人は冷静な判断を下すのが難しくなります。
そうした局面であえて「安全資産を売ってリスク資産を買い増す」という行動を取るには、一定の安全資産が必要です。
結論としては、「資産構築期なら債券比率を下げ、株式中心で運用するのが合理的」と考えられます。ただし、心理的安定やリバランスのため、5〜10%程度債券を組み入れる選択は、精神面でも運用面でも有効でしょう。
適切なポートフォリオ配分を考える
基本ポートフォリオ例(リスクを抑えつつ成長を狙う)
- 株式:70〜85%(米国株中心)
米国株は世界の株式市場を牽引してきた実績があり、分散投資の面でも有力な候補です。たとえばS&P500や全世界株式に連動するインデックスファンドを組み入れることで、地域やセクターの分散もある程度期待できます。 - 債券:5〜10%(リスク分散目的)
主に先進国債券を中心に、価格変動が比較的小さいものを選ぶことでリスクを下げやすくします。インデックスファンドに債券が含まれるバランスファンドを用いるのも一つの方法です。 - 貴金属:5〜10%(インフレ対策)
金や銀などの貴金属は、インフレリスクに対するヘッジとして機能することが多いと言われています。ただし、貴金属の価格変動は激しい場合があり、長期保有を前提とする投資目的・方針に合うかどうかを検討する必要があります。 - 現金:5〜10%(暴落時の買い増し用)
株式が暴落した際に買い増しを行えるよう、すぐに使えるキャッシュを用意しておくという発想です。ただし、現金を多く保有しすぎると、インフレで価値が目減りするリスクがあります。
リスクをより取る場合のポートフォリオ
- 株式:85〜90%
リスク許容度の高い投資家、もしくは運用期間が長い投資家は、株式比率をさらに高めることも検討します。 - 債券・貴金属は最低限(5%以下)
必要最小限の安全資産だけ確保し、残りを株式に集中する方法です。大きなボラティリティを受け入れられるメンタルと、長期保有のスタンスが必須となります。
注意点
どんなに長期投資とはいえ、実際に50%を超える暴落が起きた際は、資産の半分以上が消えてしまうような感覚に陥るかもしれません。そこを乗り越えるためには、「リスクを取るのは自分の意志であり、自分の将来に対する投資でもある」という強い納得感が必要です。
また、余裕資金で投資を行い、生活防衛資金は分けて確保しておくこともリスク管理上欠かせません。
株式100%は合理的か?
株式100%のメリット
- 長期的なリターンの最大化
歴史的に見ても、株式が最大のリターンをもたらしてきた資産クラスの一つであることは否めません。長期投資であれば、株式を100%保有することで理論上はリターンを最大化できます。 - 若いうちはドローダウンへの耐性が高い
運用期間が長ければ、一時的な暴落があっても回復を待ちやすく、むしろ安く買えるチャンスとも捉えることができます。 - 株式市場は長期的に成長する
世界経済が長期的に成長しているかぎり、株式には継続的な上昇が期待できるという前提があります。
株式100%のデメリット
- 暴落時の心理的ストレスが大きい
資産が50%を超える下落をしたとき、冷静でいられる投資家は多くありません。特に運用資金が大きくなればなるほど、その金額ベースでの下落幅にショックを受けるでしょう。 - 債券や現金がないとリバランスができない
リバランスの原資がないと、安値で株式を買い増すことが難しくなります。追加の投資資金を得るには、給与収入などほかのキャッシュフローを用意する必要があります。 - 取り崩しフェーズには向かない
資産を大きく減らしたくない老後などの「取り崩しフェーズ」では、株式100%はハイリスクといえます。特に、下落局面で取り崩しが重なると、資産の回復が困難になるおそれがあります。
結論:株式100%でも良いのか?
結論としては、「リスク許容度が高く、暴落時に冷静に追加投資できるのであれば、株式100%も合理的な選択肢」です。ただし、買い増し用のキャッシュを別に確保しておくことが推奨されます。
たとえば緊急予備費として生活費の6か月分から1年分を別口座で確保しておくなど、生活を脅かさない範囲で投資に集中することが大切です。
過去の暴落と回復までの期間
歴史から学ぶ暴落の事例
暴落名 | 最大下落率 | 暴落開始年 | 回復までの期間 |
---|---|---|---|
大恐慌(1929年) | -89% | 1929年 | 約25年 |
ブラックマンデー(1987年) | -33.5% | 1987年 | 約2年 |
ITバブル崩壊(2000年) | -49% | 2000年 | 約7年 |
リーマン・ショック(2008年) | -52.6% | 2008年 | 約5年5カ月 |
コロナ・ショック(2020年) | -33.9% | 2020年 | 約5カ月 |
これらの数字から見てもわかるとおり、50%クラスの暴落は珍しいものではありません。
しかも、回復に要する期間はまちまちであり、たった数か月で元に戻ったケースもあれば、十数年かかったケースもあります。最悪の場合、1929年の大恐慌のように数十年という単位の長期停滞を経験する可能性も否定できません。
暴落を経験する心構え
暴落というのは、歴史的に何度も起きており、将来的にも必ず起こるものと考えるべきです。
特に株式100%で運用する場合は、こうしたドローダウンを「必ず経験するもの」として想定しておく必要があります。
そのうえで、以下の点を押さえておくと良いでしょう。
- 投資の目的を明確にする
教育資金や老後資金など、投資の目的によっては暴落時に資金を取り崩す必要が出てくるかもしれません。そうならないよう、資金の置き場所を目的ごとに分けることも検討しましょう。 - 期間の設定
長期投資を前提とする場合は、10年〜20年単位の視点を持つこと。短期的な暴落で一喜一憂せず、長期で見れば株式市場は成長を続けてきたという事実を重視することが重要です。 - 暴落時のシミュレーション
50%の下落があった場合に、自分の資産はどれほど減るか、精神的に耐えられるかを事前に想定しておくと、いざ暴落が起きても落ち着いて対処できます。
一括投資 vs. 積立投資
一括投資と積立投資の特徴
一括投資のメリット・デメリット
- メリット
- 市場が右肩上がりであれば、長期的に見てリターンが最大化される可能性が高い。
- 早期に大きな額を投資することで「時間を味方につける」効果が得られやすい。
- デメリット
- 暴落直前に投入してしまった場合、精神的ダメージが大きい。
- タイミングを誤ると、長期間含み損を抱えることになる可能性がある。
積立投資(ドルコスト平均法)のメリット・デメリット
- メリット
- 暴落時にも淡々と買い続けられる(購入単価が下がり、長期的には有利になる)。
- 投資のタイミングを図る必要がないので、心理的負担が少ない。
- 相場が下がっている間にたくさん買うことで、将来のリターンが増大する可能性がある。
- デメリット
- 市場が上昇し続ける場合、一括投資よりもリターンが劣る可能性がある。
- 大きな下落局面にタイミングを合わせて一括投資するという「理想的シナリオ」には及ばないリターンとなることもある(もっとも、そのタイミングを読むことは極めて難しい)。
結論:初心者には積立投資が有効
投資を継続し、長期で資産を成長させるうえで重要なのは「市場から退場しないこと」です。その点、積立投資は心理的ハードルを下げ、暴落時にも買い続けるメンタルを維持しやすいのが大きなメリットです。
実際、積立投資をしていれば、平均取得単価を下げる効果が働き、結果として暴落後の回復局面で大きなリターンを得やすくなります。
よほど大きな余剰資金が一度に手に入った場合を除けば、毎月の収入からの積立投資をコツコツと続ける戦略は、多くの初心者にとって非常に合理的です。
今後の議論の方向性
ここまでの内容を踏まえて、資産構築期における債券の比率や株式とのバランス、そして投資手法としての一括投資と積立投資の違いなどを整理してきました。
今後は、これらをさらに詳細に検討するために、以下のポイントに注目すると良いでしょう。
-
積立投資の最適な商品選び
- S&P500 vs. 全世界株 vs. NASDAQ100
どの指数に連動するファンドを選ぶかは、リターンもリスクも大きく変わるポイントです。たとえばS&P500は米国の大型株、NASDAQ100はハイテク企業が中心、全世界株は地域分散が効いているなど、それぞれに特徴があります。 - インデックス vs. アクティブファンド
長期運用を前提とするならインデックスファンドが主流という意見も多いですが、アクティブファンドの中には高い実績を出しているものも存在します。手数料や運用方針をよく検討し、自分の投資目的やリスク許容度と照らし合わせて判断しましょう。
- S&P500 vs. 全世界株 vs. NASDAQ100
-
暴落時の具体的な対応戦略
- 買い増しのタイミング
暴落時には買い増しのチャンスがある一方で、さらに下がるかもしれないという恐怖心も生じます。一定のルール(たとえば「株価指数が○%下がったら追加投資する」など)を設けることで、感情に左右されにくい行動を取れるようにしましょう。 - キャッシュ比率の確保
「買い増しのための資金」をどれだけ確保するかは難しい問題です。高配分をすればリターンの機会損失が生まれ、低配分すぎると暴落時に有効に活用できません。自分の運用方針に合ったバランスを検討しましょう。
- 買い増しのタイミング
-
最適な出口戦略(取り崩しフェーズ)
- 取り崩しを始めるタイミング
何歳からどの程度取り崩すのか、計画的に決めておくと安心です。特に老後資金が足りなくなるリスクを避けるためにも、「どれくらいの利回りが必要か」「どのくらいの生活費が必要か」を試算しましょう。 - 債券の比率を高めるタイミング
一般的に、退職が近づくにつれて債券の比率を高める投資家が多いです。これは、取り崩し時期の暴落リスクを軽減するためです。株式100%で運用を続けるのは精神的にも厳しくなる可能性がありますので、資産規模やリスク許容度に合わせて少しずつ債券比率を引き上げる時期を検討することが重要です。
- 取り崩しを始めるタイミング
まとめ
資産構築期において、債券をはじめとする安全資産の比率をどう考えるかは、多くの投資家にとって大きなテーマです。
結論としては、若いうちからリスクを取れるのであれば、株式中心(もしくは株式100%)で運用するのは必ずしも間違いではないということです。特に長期投資の視点に立てば、株式市場は歴史的に見て成長を続けてきたからです。
ただし、株式中心で運用する場合でも、暴落時に買い増すためのキャッシュは一定程度確保しておくことが望ましいでしょう。暴落を「チャンス」と捉えるには、心の余裕と資金の余裕が必要です。また、資産形成の次のステップとして訪れる「取り崩しフェーズ」では、債券の比率を高めるなど、リスクを抑えた運用に移行していくことが一般的です。
一括投資と積立投資の選択においても、初心者は「積立投資」を中心に考えるのが無難です。特に、積立投資であれば暴落時にも買い増しを継続できるため、長期的に見ると非常に有効な戦略となります。
実際、「市場から退場しないこと」が投資の最大の秘訣といわれるほど、いかに続けられるかがリターンを左右するポイントです。
今後は、具体的なファンドの選択や、暴落時の買い増しルール、老後の取り崩しプランなど、さらに実践的な要素を検討することが重要になってきます。とくに、S&P500や全世界株、NASDAQ100などのインデックス選びや、債券ファンドの種類、貴金属への投資方法などは奥が深い分野です。
自分のリスク許容度やライフプランに照らし合わせて、納得いく形で投資を続けられるよう工夫してみてください。
※本記事は特定の金融商品の購入や売却を推奨するものではなく、投資アドバイスを目的としたものではありません。投資判断はご自身の責任において行い、必要に応じて専門家にご相談ください。本記事の情報に基づく投資によって生じた損失について、当方は一切の責任を負いません。